-訪露プログラム-
-Programs of Visiting Russia-

学生リーダーグループ

本プログラムは、「日本の大学の学生団体リーダーをモスクワへ招聘し、視察・交流プログラムを」という日露青年交流委員会のロシア側提案に基づいて実施が決まり、公募には15名のところ約200名もの方々から応募をいただきました。その後、2012年5月からの「新」プーチン大統領政権下の省庁再編を受け、日露青年交流事業においてもロシア側の実施体制に一時的な空白が生じましたが、ロシア側が想定していたプログラムのアポイントメント取付け等にはモスクワの日本大使館の協力を得て、ほぼ当初の予定に近いプログラムを実施することができました。開始直前になって体制が整ってきたロシア側からはトレチャコフ美術館、プーシキン美術館、プラネタリウム見学といった文化プログラムが用意されました。

参加学生からの報告をご紹介します。

はじめに

9月16日から9月22日まで私たちは日本の学生を代表して、日露青年交流センター主催の「学生リーダー」ロシア派遣プログラムに参加しました。このプログラムではロシア外務省などロシアの政治・経済をはじめとする様々な分野の機関を訪問し、現代ロシア社会に関する知見を得ることができました。さらに、スコルコヴォやモスクワ国際関係大学などの教育・研究機関も訪問し、ロシアの様々な学生とディスカッションなどを通して交流を深めました。


9月17日(月)
在ロシア日本国大使館訪問(石瀬公使参事官のお話)
まず僕らは在ロシア日本大使館を訪問させていただき、石瀬公使参事官のお話を伺った。外務省入省当時のご自身の体験や、ロシアという国の特徴、モスクワにおける日本人の居住状況、ロシア人が日本に抱いている印象などについてのご説明の後、こちらからの質問に答えていただいた。とりわけ印象的だったのは二点。まず、イタリアンレストランですら寿司を出して当然であるほどだというモスクワでの日本食人気。この点に限らずロシア人は親日的な方が多い。次に、大使館入口に置いてある、竹島に関する資料。当問題の国際的認知を高めるための努力のひとつだという。首脳同士の会談に限らず、平時からすでに始まっているともいえる外交の奥深さを窺い知った。
在ロシア日本国大使館訪問(竹内書記官のお話)

ロシアという国を動かす仕事や東日本大震災での救援活動の話を通して感じたのは、いかに相手と友好関係を保ち続けられるかということです。「外交は0対100ではいけない」これは正に真理であると感じました。言葉や文化が違えば、言動一つで国同士の軋轢になりかねません。「外交官になったつもりで、これからのプログラム中たくさんの人々と良好な関係を築いて下さい」その言葉に一同身が引き締まりました。日程の初期にこのようなお話を拝聴でき、大変勉強になりました。

モスクワ音楽院視察
ロシアの文化を体験するために、私たちはモスクワ音楽院にて第8回秋季合唱祭を鑑賞しました。モスクワ音楽院の大ホールは、かの有名なチャイコフスキー国際コンクールが開催される場所として知られています。音楽院の演奏会シーズンの幕開けともいえるこの発表会では、ロシア各地や近隣諸国から集められた参加者により、アヴェ・マリアやロシア人作曲家による声楽曲が次々と演奏されました。旋律と歌声のあまりの美しさに、参加学生の中には眠気を誘われた人もいたようです。わずか一時間の鑑賞でしたが、音楽家の肖像や素敵な彫刻に囲まれながらロシアの文化に浸り、素晴らしい時間を過ごすことができました。
9月18日(火)
シェスタコフ国家院議員表敬訪問
ロシア国家院では、はじめに国家院の施設の中を視察し、ロシア議会や国家院の歴史についての説明を受けました。その後、国家院議員であるシェスタコフ氏を表敬し、議員と参加学生とで活発な意見交換を行いました。シェスタコフ氏は、柔道などといったスポーツ分野に特に積極的な活動をされており、またそのような立場からロシアの青年育成にも携わっているため、今回の意見交換では主に“日露のスポーツ交流”などといったテーマが話題となりました。 ロシアの国家院や議員の方たちは非常に友好的で好印象でした。中でも、シェスタコフ議員や秘書の方たちは、意見交換やそれ以外においても丁寧に対応していただけたように感じました。この表敬を通して、ロシア政府に関して抱いていたやや消極的なイメージは、少し変化したように思います。
リア・ノーヴォスチ通信社訪問
リア・ノーヴォスチ通信社は、ロシア国営の通信社である。この通信社で私たちは、社員の方に社内の各部署を案内していただき、社員の方々にお話を聞いた。最も印象に残っているのは、現在緊迫している日中の尖閣諸島問題に関してどのように報道をしているか、との質問に対して、「事件の綿密な情報収集を行い、個人の見解などを排除し、事実を曲げず報道することを第一に掲げている」と回答があったことである。社員の方々が、通信社が担う社会的役割を全うしようとしている姿勢を垣間見ることができた。また、社内には社員のための余暇施設が非常に充実しており、社員を大切にする社風を感じることができた。日本の通信社との違いについて考えさせられる貴重な訪問であった。
イズベスチヤ社訪問
プログラム3日目の最後に、私たちはイズベスチヤ社に行きました。イズベスチヤ社は、ロシア革命のころから続く伝統のある新聞社です。社屋は古いビルの一角にありましたが、内部は、デスクが整然と並ぶ吹き抜けのオフィスと何区画かの会議室に改装されていて、清潔で現代的でした。社内を見学したあとに編集長や職員の方とお話しする機会がありました。ロシアでの経済発展の進歩と課題、新聞社での資料のやりとりにペーパーレス化が進んでいることなど、報道の一線で活躍する方々から質問にお答えいただき、貴重なご意見を伺うことができたため、有意義な訪問となりました。
9月19日(水)
ロシア青年同盟訪問
かつてはソ連の青年育成組織として機能していたロシア青年同盟を訪問した。現在は政治色の無い組織としてボランティア活動や青年の健全育成に関わっているとの事であった。日本とは意味合いが少し違うようであるが、ロシアにおいては「リーダー性」というものが非常に社会において重視されているようである。
担当の方と一人一人の活動について簡単な自己紹介を行い、日本とロシアのリーダー観に触れる良いきっかけとなった。
トレチャコフ、プーシキン美術館訪問

トレチャコフ美術館

文化プログラムの一環でトレチャコフ美術館とプーシキン美術館の視察を訪問した。トレチャコフ美術館は豪商の個人コレクションを基にした、ロシア美術の殿堂であり、プーシキン美術館はモスクワ大学の付属美術館として始まりフランス絵画の一大コレクションで有名である。
 トレチャコフ美術館の絵画を見ると、風景画と肖像画の多さに気が付く。西洋絵画では絵の題材によって高尚な絵か卑俗な絵かが決まるが、トレチャコフ美術館で人気があるのは高尚な歴史画や寓意画よりも一段序列の低い、肖像画や風景画である。これはロシア人が世界的にも特に印象派の肖像画や風景画を好む意識と共通しており、趣の異なる二つの美術館を比較することでロシア人の美意識がより深く見えてきた。
プラネタリウム訪問
私たちはロシア教育科学省の計らいにより、私たちはモスクワで大人気のプラネタリウムを訪れた。モスクワプラネタリウムは17年振りに改装され、今年1万7000平方メートルの欧州最大プラネタリウムとして生まれ変わったばかりだった。シアターと博物館が併設されており、宇宙分野で世界をリードしたいロシアの熱意を感じた。実際にプラネタリウムの内容は、初めて見たということもあり、惑星や星座の紹介が分かりやすくとても見応えあるものだった。2部に入る前に故障で少々時間を要した所にロシアらしさを感じたが、これから更に技術発展を進める歴史のスタートを見たような気がして嬉しくなった。
「OKONOMY」というお好み焼き屋さんで夕食をとりながら、日本人経営者の財間さんよりロシアでのレストラン開業・経営のご苦労を聞きました。物件賃貸契約、飲食業開業許可取得、採算、スタッフ教育等々で数々の問題があったとのことで、学生たちも興味津々でした。
9月20日(木)
ロシア外務省訪問
4日目の午前中には、ロシア外務省を訪問しました。過去に、大使等の重職を歴任された職員の方に、外務省内のロシア外交博物館を案内して頂きました。この博物館は、かつては重職に付く方の部屋として一つの部屋として使われていたものを、博物館用に壁で仕切ったもので、部屋の真ん中の壁のみ空いており博物館の端から端までが吹き抜けになっているという珍しいものでした。部屋の端から端まで突き抜ける吹き抜けは、まさに、栄光と苦難に満ちたロシア外交の歴史を表しているようでした。最後には、若手の職員の方々との交流の時間が少しだけありました。若手職員の方々は非常に日本語が上手で、率直な意見交換ができました。
スコルコヴォ基金付属大学学生との交流会
【概要】
スコルコヴォとは、ロシア版シリコンバレーのことであり、モスクワ郊外に位置する。スコルコヴォ計画は、企業家育成を目的としており、医療、エネルギー効率、核エネルギー、宇宙通信、ITを近代化優先5分野と位置づけ、現在、様々な企業や研究グループなどの誘致を、様々な優遇措置を取ることで行っている。私たちは建物内を案内され、幾つかの研究チームを見学しました。その後、担当者の方からのプレゼン発表の後、スコルコヴォに併設されている大学の学生たちと交流をしました。
【感想】

この計画はまだ始まってから時間が短く、建物も建設中で、成果が表れるのはまだまだ先のようです。併設されている大学には成績の優秀な精鋭が集まってきており、彼らに対し世界中からの有名な講師が講義などを行うとのことです。彼らは、私が日本の大学の工学部に所属し、研究をしていると話すと、日本は科学技術が優れているので、研究のことについて色々話を聞きたいと言われました。彼らは自分の国の科学技術分野が弱い事を心配しており、日本に事を非常に高く評価していました。一方、私も一応一研究者ですが、スコルコヴォの大学の学生の英語力には驚きました。研究で一流になるためには語学力は必須なので、そこは私も見習わなくてはと感じました。近年日本では科学技術分野への投資が減少しており、他国の追い上げもあって、安心していられるという状況では全くありません。日本はロシアと異なり資源がなく、生き残る唯一の道は技術分野の発展です。この分野の重要性を国がもっと認識し、力を入れていかなくてはいけないと強く感じました。


モスクワ国立国際関係大学訪問
9月20日(木)の16時から17時半にかけて、モスクワ国立国際関係大学(通称:ムギモ)に訪問した。大学では、日本語を勉強している学生たちとその先生方、計20名程が対応してくれ、日本語を用いての意見交換会が主に行われた。まず、意見交換が行える水準に日本語を使いこなすことのできる学生が数多くいることに驚いた。学生との意見交換会では、「両国の若者の間の流行」や「両国の文化」、さらには「就職活動」といった日ごろの学生生活に密着した気軽な話題から「外交政策」や「民族問題」といった硬派な内容まで幅広く意見が交わされた。1時間余りの意見交換会ではあったが互いにとても仲良くなり、その後もフェイスブック等で連絡を取り合っており、今後につながる継続的な関係を築くことができた。

帰路、雀が丘(レーニン丘)からモスクワ市を一望してホテルに戻りました。この日の訪問先ではロシア側の若手の人たちとゆっくりと話をする時間はとれなかったのですが、夜、ロシア外務省の若手省員、スコルコヴォやムギモの学生たちがイズマイロヴォ公園そばのホテルまで来てくれました。非公式の日露青年交流は夜遅くまで続きました。

9月21日(金)
三菱自動車ロシア支社ヒアリング
【概要】 近年目覚ましく消費の拡大するロシアにおける、三菱自動車のビジネスについて幅広く伺った。流れとしてはまずここ数年の三菱自動車のロシアにおける展開についてプレゼンを行っていただき、その後質疑応答という形式を取った。

【感想】 ロシアにおける自動車市場がいかに成長しているか、具体的な数字を踏まえて把握することができたのは良い機会だった。同時に、自動車に限らず日本を含めた外資企業のビジネスがどのような点で課題を抱えており、ロシア政府が如何にして技術を導入しようとしているか、現場でのご経験からお話しいただき勉強になった。他方、ロシアにおけるビジネスは人ベースでは親日家が多いためやりやすいというのは盲点であり、とても嬉しい発見だった。今後の関係維持に期待したい。
クレムリン見学
クレムリンは首都モスクワの中心にある宮殿のことをさし、「城塞」を意味する。他の都市にもクレムリンはあるが、ソ連時代には共産党の中枢、現在ではロシア連邦の大統領府がおかれるモスクワのクレムリンは街のみでなく国家の中心でもある。そのため原型が12世紀に造られて以降、戦争によって何度もクレムリンは破壊されたが、その度に「不死鳥」のように再建され続け、今日に至るという話が印象的だった。また敷地内には、様々な時代の様式による宮殿や大聖堂(寺院)、一度も使われなかった世界一大きい大砲や、とてつもなく大きい鐘楼などユニークな面々が並ぶ。これらの外観の美しさも素晴らしいが、大聖堂の中に入ると息をのむような壁画が待ち構えていて、過去の時代を生きた人々が確かにそこへいたことを感じられる空間であった。
モスクワ視察

クレムリンと隣接する「赤の広場」(赤とは「美しい」を意味する)は、レーニン廟や近代的なグム百貨店、国立歴史博物館、観光客の目を輝かせる、まるでおとぎ話に出てくるお城のような聖ワシリイ大聖堂、そして多くの観光客や地元の人々に囲まれて、穏やかで心地よい時間が流れていた。街の中心には美しい歴史的な文化財があるが、一方で、街中にも著名人の銅像が多く立ち、景観を自ら意識しているかのような工事現場のネットの絵の工夫や駅の建築、建物の装飾などが溢れている。ロシアでは人々や街自体が自ら「美しくあること」を意識的にせよ、無意識的にせよ実践しているように感じた。このような環境だからこそ文学や芸術、音楽など秀でた作品が数多く生まれたのだろうかと、ふと思った。

終わりに

今回のロシア派遣プログラムでは、政治・経済・文化などの多方面からロシアについて学ぶ貴重な機会となりました。特に、大学などを訪問し、ロシア人学生との交流を深めたことで、日露双方の学生がお互いの文化について理解を深めるきっかけにもなりました。このようなことの積み重ねが将来の日露関係の発展につながっていくのではないでしょうか。また、帰国後メンバーの1人の荷物が成田空港に届かないというロシアらしいアクシデントもありました。今回のプログラムで得た知識・経験を基に、各メンバー達が様々な分野で活躍していくことを祈ってやみません。

成田空港での1枚
ロシアから荷物が届かず落ち込んでいるメンバーも・・・

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