-ロシアの教室から-

日本語教師派遣大学紹介①(2010年度)

A.M.ゴーリキー記念ロシア国立ウラル大学 (野口誠教師)

≪大学紹介≫

 ロシア屈指の重工業都市・スヴェルドロフスク州エカテリンブルグ市(人口約140万)で最高レベルの学力と規模を持つ大学です。
国際関係学部東洋学科および哲学部社会言語学科において、総勢50名ほどの学生が日本語を学んでいます。

 エカテリンブルグはロマノフ王朝最後の皇帝・ニコライ2世の終焉の地であり、エリツィン元大統領の出身地としても知られます。
また「世界一マヨネーズを消費する街」としてギネスブックに載るという、変わった一面も持っています。



≪印象に残る体験≫

 私の誕生日である12月30日に、「カレーパーティー」をしました。
調理準備は学生たちも手伝ってくれました。意外に男子も、手際がいい。お菓子やおかずやケーキもリズムよく出すし、なんかパーティー慣れしてます。もともと、前期最終日の12月30日は、うちの大学ではパーティしたくなる日取りらしいです。

 初級中盤レベルの彼らなりに、たどたどしい日本語で祝辞を述べてくれたり、律儀にケーキに年齢のぶんのろうそく(30本超・・・!)立ててくれたり、なんて良い奴らなんだ、キミたち。


 極めつけは、普段はとてもおとなしい、ある男子がメモ片手に「歌います」と・・・。
日本語で歌い始めたので聞いていたら、どこかで聞いた、青臭い歌詞。これは・・・

「・・・なんで知ってるんですか、One Pieceのアニメの、いちばん新しい歌!?」

彼が歌い終わって拍手を贈った後、思わず日本語でコメントしてしまいました。

 私が人気マンガ「One Piece」のファンであることは、授業のネタも兼ねてことあるごとに学生に触れ回っていたのですが・・・。
事情を(日本語で!)理解して、室内が爆笑の中、サプライズの成功にひとり「してやったり」の表情の彼。

テストで忙しいこの時期に、とりあえずリズムを合わせるレベルになるまで歌を練習するとは・・・感動しました。


大学から3kmほど離れた場所に位置する、寮の窓(8階)からの眺め。正面の建物はウラル大学の別館です。



経済法律人文学院(クラスノダール)(宮崎さとみ教師)

≪大学紹介≫

 経済法律人文学院(通称イネップ)の東洋学部では現在第一外国語として日本語、中国語、ペルシャ語を勉強している学生がいます。小さい大学なので学生はみんな仲が良く、先生やスタッフもおおらかでアットホームな雰囲気です。

 日本語を勉強している学生は日本に行ったことがなくても、日本人が周りにいなくても、日本に大変興味を持ち、楽しんで日本語の授業を受けています。
全学年に日本語のグループがありますが、派遣教師が担当しているのは2~4年生です。



≪東洋学部祭≫

 東洋学部祭ではそれぞれの学年が出し物をします。
他の言語を勉強している学生たちと一緒に学年一つになってパフォーマンスをするのをとても楽しんでいました。



暖かいといわれているクラスノダールにも1月には雪が降りました。まだ残っていたお正月のライトアップと積った雪がとてもきれいでした。





タタール国立人文教育大学(前田朝子教師)

≪大学紹介≫

 タタール国立人文教育大学はタタール自治共和国カザン市にあります。
カザンはロシアの中でも独特な場所で、ロシア人とタタール人が半分ずつ住んでいるため、文化的に西洋と東洋がミックスしているのが魅力です。大学がたくさんある比較的大きい町で、大学で勉強するために近くの小さい町からたくさんの学生が親元を離れ、一人でカザンに来ています。

 日本語は外国語学部東洋言語学科に所属しており、英語教育を専門としている学生たちの第二外国語の科目の一つとして扱われています。第二外国語といっても、学生たちは2年生のときから日本語を学び始め、5年生までの4年間習います。5年次には教育実習も行われます。カザンには今日本人が私一人しかいないので、学生たちは日本語を勉強してもなかなか使う機会がありません。それでも、日本の文化やアニメに興味を持った学生たちが、ゆったりペースで授業を楽しんでいます。笑顔がたくさん出る素直でいい学生たちばかりです。



≪印象に残る体験≫

 カザンではじめての授業の日、「おはようございます」と言って教室に入っていったら、10数人いた学生の誰一人も返事をしませんでした。もうすでに去年一年勉強して、みんなの日本語20課まで終わっているという報告を受けていたので「おかしいな」と思いながら、「はじめまして。前田です。」と言っておじぎをしました。すると、一人の女子生徒が英語で「私たちは日本語を使ったことがないから、ごめんなさい。グッドモーニング。」と言いました。

 カザンには今日本人が一人しかいません。

つまり、学生たちは1年日本語を勉強してはいたけれど、私の初授業の日が彼らにとって実際に日本語で挨拶したり自己紹介したりする初めての機会だったということに気がつきました。それは挨拶ひとつするのにも勇気がいるわけです。

 このような場所で、日本にいる留学生や他の日本語教育が盛んな地域の学生が使う教科書を使い、同じように授業をすることに意味があるのかと悩みながら、毎回授業以上のことができないか試行錯誤しています。カザンの学生たちにとって私が「THE日本」になってしまうので、できるだけテーマや話し方が偏ることのないように気を使っています。
また、幸運なことに私の教えている大学は男子学生も多いので、やはり口調や選ぶ言葉にも気を使っています。何せ他に生で日本語を聞くチャンスがないのですから。







ノヴォシビルスク国立工科大学(井本美彩子教師)

≪大学紹介≫

ノボシビルスク工科大学では1年生から5年生まで約60人の学生が日本語を学んでいます。留学生も多く、2年生のクラスでは3分の1が中国人留学生です。

≪印象に残る体験≫

俳句を学生と作ったこと。

卒業試験に合格することが最上級の学年では中心となっていますが、せっかく言葉が身についてきたのに知識を覚えることが中心となっているのが残念だと思い、俳句を作ってもらいました。
言葉はその人自身の表現だと思うので、表現手段としての日本語として表現されたものから学生のことを知りたいし、その表現のおもしろさを知ってほしかったのです。

学生の使う言葉のセンスが興味深くて、日曜日、何もすることがなく時間の過ぎていく様をコーヒーの泡、で表現したり、人間の孤独を山と天の距離で表現したり、とその人が少し垣間見える時間となっておもしろかったです。

その一部をご紹介します。現代版万葉集のようです。

冬が来た 雪がくれた木天使の羽
 (シベリアの冬の中、人々は帰り道を急ぐけれど、私には雪の中に立つ木が天使の羽に見えてこの冬をゆっくりと楽しんでいる)

冬の夜 熱すぎる記念 漲れる
(こごえるような寒い冬の夜、今日も傍らに彼女のぬくもりを感じ、その愛が私の中でみなぎっている)

山と天 近づくほどに 人と人
(高くそびえ立つ山でも空との間には果てしない距離があるように、近づけば近づくほど、人には決してわかりあえない孤独がある)

ご質問 桜の下で 答え聞く
(春の風吹く桜の下で、君に向けて問うた愛の答えを、今、君の口から聴こうとしている)

一人では 雪明り見る まだ来ない
(待ち侘びて、そこに見えるのは雪明りだけ。あなたの姿を、私はずっと探しているのに)

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