若手研究者等フェローシップ(2011)



渡辺裕美
2012年3月
−ロシアの日本語教育−

ロシアの日本語教育は、18世紀初頭にサンクトペテルブルクにロシア初の日本語学校が設立されて以来約300年の歴史があります。19世紀半ばまでは難破した漂着民を教師とする日本語教育が行われていました。その後、1870年サンクトペテルブルク大学に日本語講座が開かれ、初代在日ロシア領事による和露辞典の編纂に協力した日本人や公使館員、ロシア語教師であった日本人が教鞭を執るようになります。20世紀に入るとロシア人研究者による日本研究・日本語研究が盛んに行われるようになり、その傍ら辞典や会話集、教科書も数多く執筆されました。

20世紀後半には今も旧ソ連圏で広く用いられている日本語教科書が編纂されています。さらに、1990年代にはそれまでモスクワ、サンクトペテルブルグ、ウラジオストックの3都市に集中していた日本語教育がロシア各地に広がり、日本語が学習できる機関数が急増しました。現在、ロシアの日本語学習者数は1万1千人を越えています。日本語が学習できる機関は大学や語学学校だけでなく小中学校にまで広がり、モスクワでは小学5年生から第二外国語として日本語を選択できる学校があります。


−研究−

私の研究テーマはロシア語母語話者に対する日本語音声教育です。モスクワを拠点にロシアの地方都市も訪れ日本語の先生方に調査に協力していただいています。ロシアで一番驚いたことと言えば、12月にノボシビルスクを訪問したときのことです。−20度の寒さの中、待ち合わせをしてお会いした先生に、骨にまで痛みを感じながら「寒さが厳しいですね」とご挨拶しました。すると「いいえ、まだ暖かいですよ」とのお返事。「ええっ!!いったい何度になったら寒いんですか?」とたずねると「寒いのは−30度から−40度くらいです」と笑顔で答えてくださいました。−30度になると学校も休校になるそうです。こうしてたびたび「ええ!!」と驚かされながら、日本語教育に携わる先生方にお目にかかりロシア語圏の日本語音声教育について考える日々を送っています。

一昨年、筆者がロシア語圏の日本語教師を対象に行った調査によると、先生方が指導を不得意とする分野は音声教育が断トツで1位でした。調査では文法、読解、会話など9分野についてたずねましたが、日本人教師、ロシア語母語話者教師共に、多くの教師が音声教育を不得意分野だと回答しました。音声指導が困難な理由としては「教え方がわからない」や「教材がない」「時間がない」という理由があがりました。文法、読解、会話などはロシア独自の教材や教授法が充実しており問題が少ないようですが、ロシア語母語話者を対象とした音声教材は資料も含め極めて少ないのが現状です。

とかく後回しにされがちな音声教育ですが、学習者のニーズは高く、「日本人のような発音で話したい」「正しいイントネーションを身につけたい」などという学生の声をたびたび耳にします。さらに、これまでの評価研究では、日本人が外国人の発話を評価する際、発話要素の中でも特に発音がマイナス評価されやすいことが示されています。ニーズに対応するためにも、発話の評価を下げる要素を取り除くためにも音声教育は欠かせないものであると言えるでしょう。

私の研究の目的は、ロシア語母語話者の発音の誤りの中でどのような種類の誤りが特に評価を下げるかを明らかにすることです。発音の誤りに対する評価を明らかにすることで、指導の優先順位や基準を検討する手がかりを示したいと考えています。研究にご協力いただいた先生方からは「学生の発音の特徴を振り返るいい機会になりました」「結果を楽しみにしています」「ぜひ結果を報告しにきてください」など、多くの励みになる言葉を頂きました。こうした先生方のお役に立てるようこれからも頑張りたいと思います。