日露青年招聘・派遣事業

平成22年度派遣事業
「ロシア古典文学ゆかりの地探訪」日本人青年専門家派遣プログラム
(2010年9月11日~9月19日)


本プログラムは、ロシア連邦青年問題局より提案され、「文学を含むロシア文化に関心を有する日本人青年がロシア古典文学の生活及び作品に関連する場所を訪問する」という内容で策定されたプログラムです。当センターの公募によりロシア古典文学に精通した10名の日本人青年を派遣しました。


事前勉強会(2010年8月26日。於外務省)

日本人参加者にとっては平素より研究しているロシア古典文学ですが、ロシア側のプログラムということで、ロシア人の視線で視察することができ、古典の知識が深まったと高く評価されました。

滞在日程


9月11日(土) 成田発、モスクワ到着

9月12日(日) 視察「テーマ:文学のモスクワ」

9月13日(月) 視察「テーマ:モスクワの入り江」、ロシア人青年との文学懇談会

9月14日(火) サンクトペテルブルクへ

9月15日(水) プーシキン市視察、視察「テーマ:ペテルブルクのプーシキン」、運河巡り

9月16日(木) 視察「テーマ:文学のペテルブルク」、モスクワへ

9月17日(金) 視察「テーマ:トルストイ『戦争と平和』のモスクワ」、「テーマ:モスクワのゴーゴリ」

9月18日(土) モスクワ発

9月19日(日) 成田着、解散

以下、参加者によるリレー・レポートです(敬称略)。

≪中村秀隣:東京大学大学院≫

9月11日(土)

成田空港を出発。約10時間のフライトを経て、モスクワ・シュレメチェヴォ空港に到着しました。空港ではカーチャさん、アレクセイさん2人の同行者の出迎えを受け、そのままホテルへ。


9月12日(日)

朝早くから現地の「文学ガイド」のイリーナさんに連れられて、視察「文学のモスクワ」視察を行いました。

最初に訪ねたのは、19世紀初頭の詩人、ミハイル・レールモントフを記念する銅像です。彼の著書「現代の英雄」の主人公ペチョーリンと同じく、若くして決闘に倒れたレールモントフの像は、そのイメージに違わず颯爽として力強いものでした。



次に訪れたのは、19世紀の大作家、フョードル・ドストエフスキーの父親が医師として勤めた貧民救済病院です。デビュー作「貧しき人々」以来変わらず、貧しくて社会的にも虐げられた人々に向けられた作家ドストエフスキーの「目」は、ここで養われたのだと言います。庭にはやはりドストエフスキーの銅像がありました。祈るような表情を浮かべたドストエフスキーはまるで聖人のようで、レールモントフとは対照的です。イリーナさん曰く、銅像にはそれを設計した人の抱いているイメージやセンスが大きく反映されるとのこと。



次に向かったのは、19世紀の寓話詩人イヴァン・クルイロフの銅像がある公園。クルイロフの寓話を象ったレリーフもあります。イリーナさんは、一つ一つのレリーフに表された寓話の意味を語って聞かせてくれました。



バスから見えた、19世紀の劇作家アントン・チェーホフが住んでいた家。有名な「サハリン島」執筆のための旅も、この家から出発したそうです。まるで劇のセットのような佇まいで、今はチェーホフの記念館になっています。



「文学のモスクワ」視察の最後に訪れたのは、20世紀初頭の詩人ウラジーミル・マヤコフスキーの銅像。マヤコフスキーの詩の特徴は、簡単で誰にでも分かりやすい、洗練された言葉遣い――、そう語るイリーナさんの言葉にふさわしく、マヤコフスキー像の前には見学するロシア人の子供たちが集まって賑やかでした。



「文学のモスクワ」視察の後も一同はモスクワ市内観光を満喫し、ホテルに戻りました。


≪惟村早紀:富山大学人文科学研究科≫

9月13日(月)

午前中はプーシキンに関わる場所を巡りました。プーシキンが赤ん坊のときに洗礼を受けた教会や妻ナターリヤと結婚式を行った教会を見学しました。そして、最後にアルバート通りにある2人が住み始めた家も外からだけですが、見ることができました。


午後は国際交流基金へ訪問し、私たち一行とロシアの青年たちとディスカッションしました。ロシア側の方々は熱心に私たちに文学や文化に関して質問してくれました。国は違いますが、同じ年代のそれぞれの文学に対する熱意や考えはとても興味深いものでありました。



9月14日(火)

朝早くにモスクワのレニングラード駅からサンクトペテルブルグへ向かい、午後から市内観光が行われました。ネヴァ川をロストラから眺め、他にオーロラ号、イサク大聖堂を見学しました。また、ドストエフスキーの「罪と罰」に登場する金貸しばあさんの家のモデルとなった家も外からですが見ることができました。


≪岩坪玲加:京都大学大学院≫

9月15日(水)

サンクトペテルブルクのキエフスカヤ・ホテルでの朝食後、バスでプーシキン市視察へ向かいました。

詩人プーシキンの像の前で。


美しいエカテリーナ宮殿に隣接する、プーシキンの学んだ貴族学校・リツェイの中で真剣に学芸員の方の説明に耳を傾ける参加者一同。中にはプーシキンが数学は苦手であったという逸話に「よかった!」といった感想の声も聞かれました。


昼食後は再びペテルブルクの市内へと戻り、一旦ネフスキー通りでの自由時間となりました。参加者はめいめい書店を巡ったり興味のある作家の記念館を訪れて過ごしていました。

作曲家チャイコフスキーの通った法学校を改装したレストランにて夕食。



その後、船に乗り込んで運河巡りへ。ペテルブルクの夜景を水上から眺め、その幻想的な雰囲気にこの街が様々なロシア文学の名作の舞台となった理由が理解できる思いでした。
終盤にはどこからともなく一同による歌が始まり、たっぷりと運河の旅を楽しむことができました。



≪神田智子:東京外国語大学院 ≫

9月16日(木)

サンクトペテルブルグ最終日は、バスで文学ゆかりの地を巡りました。サンクトペテルブルグで我々を悩ませたのは、前日から引き続いた渋滞です。これで大幅に当初廻る予定だった所を変えざるを得なくなったこともありました。ネフスキー通りから夏の庭園を通りミハイロフ城へ、ドストエフスキーが卒業した工芸大学を通りながら、ドストエフスキーとゴーゴリの作品の「一番美しいイメージ」の構築にどのようにサンクトペテルブルグが関わったかを学びました。



その後ドムクニーギ(書店)での40分ほどの自由時間で本を購入。澄み切った空に映えて美しいカザン聖堂の横に集合後はモスクワ駅近くのチェレモックで軽い食事を済ませました。サンクトペテルブルグのガイドさんと運転手さんとの別れを惜しみながらも、すぐに行きと同じ電車の快適なサプサンに乗り込みモスクワへ。ホテルでの夕食後ゆっくり、旅の疲れを癒すことができました。



≪笹山啓:東京外国語大学大学院≫

9月17日(金)


ペテルブルグからモスクワに戻り、この日は午前中がレフ・トルストイ関連、午後がゴーゴリ関連の視察でした。かつての国際作家同盟の本部、トルストイの作品中にも登場し、上流階級の男性の社交の場となっていたイギリスクラブが置かれた貴族の私邸、ゴーゴリが晩年を過ごし、今は博物館となっている屋敷などを巡りましたが、中でも個人的に最も印象深かったのが、ノヴォデヴィチ修道院です。広々とした墓地の中に、他に紛れひっそりとたたずむゴーゴリやチェーホフを始めとする作家たちの墓には、誰が供えたのか、美しい花が置かれており、こうしたさり気ないところに、ロシアにおける作家という存在の大きさや、ロシアという国が文学の国たる所以、そういったものを見せつけられた思いがしました。



9月18日(土)

ロシア滞在最終日は、午前中が自由時間。各人がめいめいの興味に沿って散っていったが、私は数名と共に地下鉄ルビャンカ駅近くのマヤコフスキー博物館に赴きました。博物館の最上階には、かつてマヤコフスキーが住み、そこで自殺を遂げた部屋が当時の状態のまま保存されています。大学の卒業制作の絵画や恋人に宛てた手紙、さらには遺書などが、実にオリジナリティに富んだ装飾と共に展示されており、アヴァンギャルド詩人の性情をそのまま映し出したかのような、大変ユニークかつ興味深い博物館でした。

正午にホテルに集合し、空港へ。ロシア側同行者と最後の最後まで手を振って別れました。


9月19日(日)

9時間ほどのフライトで成田空港に到着。一本締めの後、名残を惜しみつつ解散となりました。

参加者の声

≪梶山祐治:東京大学大学院≫

ロシアは何度も訪れている自分ですが、わずか一週間強の日程でありながら、個人的に今回ほど充実した同国での滞在は経験したことがありませんでした。そこにガイド・通訳付きの快適さがあったことは間違いありませんが、いつも決まって一人でロシアを訪れる私は、日本の様々な地域でロシアと関連した個別の研究に従事している仲間と共に訪露する喜びを、実感せずにはいられませんでした。ロシア人学生とのディスカッションでは、強気に質問を浴びせかけてくる向こうの学生に負けずに皆が自分の意見を表明してくれました。出発の前々日くらいから、メンバーはロシアを去ることの淋しさを口にし始めるようになり、アレクセイと通訳のカーチャが見送ってくれた空港では、私たち一同はただ別れの時を耐え忍ぶしかなく、満足な、気の利いた挨拶を言うこともできませんでした。


訪ロメンバーの多くが、「こんなに楽しかったロシアは初めて」としきりに言っていたことが今はよく思い出されます。残念ながら、濃密な時間に溢れた夢のような体験はもう終わってしまいました。私たちはそれぞれ日本の生活に帰ってきたのです。今度の体験は、各自が抱えるロシアと関わりのあるそれぞれの目的に進んでいく上で大きな力になってくれるでしょう。今回、一緒にロシアに旅立った9人のメンバー、アレクセイを始めロシアでお世話になった方々、そして貴重な機会を与えて下さった日露青年交流センターの方たち全員に感謝したいと思います。ありがとうございました。





無題ドキュメント